今回はこの夏に訪れた2つの修道院の訪問記です。
一つはアルルに近いモンマジュール修道院、そしてもう一つはアヴィニョンとタラスコンの中間地点あるフリゴレ修道院です。
モンマジュール修道院
以前から気になってはいたこちらのモンマジュール修道院。中世のサン・ピエール修道院と近世のサン・モール修道院の2つの修道院で構成されています。サン・ピエール修道院とその西側に建てられたサン・モール修道院とは大アーチでつながっています。
アルピーユの観光名所、モーサンヌ・レ・ザピーユやレ・ボー・ド・プロヴァンスなどからアルルに向かう街道沿いにあり、修道院としてはアクセスがよいのですが、このアクセスの良さというのも、今となってはということで、当初は沼地に囲まれた岩山で、沼地に浮かぶ島状態だったため、アクセスは船に限られていたとか。
この修道院はかなり有名なようで、ネット上でもある程度、情報が得られ、入場料(6ユーロ)がいることもわかっていました。
非常に規模が大きく、現存する部分は修復部分も含め半分程度のようですが、まるでお城か城塞のような作りです。駐車場から見てもこんな感じです。(これはサン・ピエール修道院です)
ここではこの旅で初めてコロナワクチン接種証明(ワクチンパス)の提示が求められました(2021年7月末時点)。
伝承によると、モンマジュールが宗教的に意義のある場所となった起源は6世紀初頭にまで遡るそうですが、10世紀にベネディクト派の修道士に寄進された時をもって修道院の創設とされています。現在残っているサン・ピエール修道院の建物は、11世紀から14世紀の間に建てられたものだそうです。
修道院内では、サン・ピエール修道院の修道院教会であるノートルダム教会、修道院外周部、修道院回廊とサン・モール修道院の順番で見学ができます。無料の案内リーフレット(複数の言語版ありましたが、日本語版はなし)があるので、それを手にしながら見学するのが手っ取り早いと思います。
ノートルダム教会は(丘の斜面に部分的に岩盤を基礎にして建てられており、やや地下に入っていくように建物内の坂を下り地下礼拝堂へ進んでいきます。
明り取りの窓が辛うじて地表に達している半地下の礼拝堂は、部分的には修復により再建されており、当時の状態ではないようですが、祭壇部分などを含め、何の装飾もないがためにかえって静けさを感じることができます。
ここからは一度地表に出ることができ、この教会の基礎にもなっている岩盤を見ることができます。
地表から見たノートルダム教会ですが、見学できた地下礼拝堂は、下の写真の下部、やや屋根が広がっている部分にありました。
また上の写真の左手に見えている岩盤上には下の写真にような人工的に作られた穴が何十とありました。これらはすべて墓地として埋葬のために掘られた穴でした。説明書に、最も古いものには頭部と足用のくぼみがあると書いてあるのですが、ちょっとよくわからない説明です…。💦
またこの場所からはノートルダム教会とともにこれから見学する1369年築の塔ポン・ド・ロルム(Pons de l'Orme)を眺めることもできます。
ここからはさらに修道院を囲む石壁に造られたアーチ門を通り抜けて進み、崖に作られた石階段を下っていきます。
このアーチ門は崖下にある礼拝堂への入り口になっていて、横の壁には聖ペテロのレリーフがあります。プレロマネスク様式のサン・ピエール礼拝堂は部分的に崖を掘りえぐって造られており、修道院の中で最古の建物です。
ここを見学後は再び石階段を上って壁の内側に戻り、先ほど見えた1369年築の塔ポン・ド・ロルム(Pons de l'Orme)を目指します。
この塔は100年戦争時代には修道院の防御のかなめだったようです。また眺めのいいこの塔からは遠くアルルの町を眺めることもできます。
またここからは修道院施設も一望でき、これから向かうサン・モール修道院やアルルからの街道を迎えるかつての正門などが見て取れます。この正門を含む風景をアルル滞在中(1888年-1889年)のゴッホが幾度となく描いており現在もアムステルダムのゴッホ美術館で保管されているそうです(展示されているかどうかの情報は掲載されていません)。
いったん塔を下り、先ほど見てきた教会につながる回廊部分を見ていきます。
旧正門のそばの開けた場所から改めて建物ヘ進んでいきます。下の写真の右手が回廊のある建物、左手の建物がサン・モール修道院ですが、そのほとんどは廃墟となっており見学できるのはそのほんの一部となっていました。
それでは、回廊の中を見ていきましょう。南回廊、東回廊、北回廊、西回廊とそれぞれに歴史があり、細かな説明がありました。回廊からはさらに食堂や集会部屋さらに地下礼拝堂の上にある教会へ進むことができます。
地下礼拝堂の上部にあたる教会部分は12世紀の建築となり、プロヴァンス・ロマネスク建築の代表的な建築だそうです。
サン・モール修道院は現存する部分も少なく一部の部屋が見学できましたが、修復部分も多くあまり強い印象がありません。建物はアヴィニョンの建築家により1703年から1719年にかけて作られました。最盛期は内部には豊かな装飾がなされた5階からなる高さ25m、広さ8000㎡という壮大な建物でした。大火事によるダメージを受けた後も、速やかに修復、拡張工事が行われたそうですが、革命時に壊滅的な打撃を受けてしまったそうです。その後、ようやく1912年に歴史的建造物保護の対象となり、1994年に部分的修復が行われたものの、規模は当時の八分の一程度になってしまったとか。
見学の後には、塔の上から見つけたひまわり畑に寄り道しました。
フリゴレ修道院
次に訪れたさサン・ミシェル・ド・フリゴレ修道院(Abbaye Saint-Michel de Frigolet)は、モンタニエット丘陵の中腹にある森の中にあります。修道院の名前は、この地に特に多く生息するタイム(プロヴァンス古語でfeligoulo)に由来しています。本来の街道を外れ、松や糸杉の林やオリーブの木の畑に囲まれた丘陵地帯を進むと、開けた谷の奥に突然2つの尖塔を持つ教会が見えてきます。
修道院へ入るためにはこの道を登り切ったところにある駐車場まで進む必要があります。(谷の下から入っていくことはできないようです)。
駐車場はとても広くかなりの収容力がありますが、私たちが訪れた時にはほんの数台といった状況でした。
修道院の歴史は古く、すでに7世紀には建物があったようですが、文書で確認できる最古の記録は1133年だそうです。モンマジュールの修道士たちが、健康上の理由から母体となる修道院周辺の湿地帯を離れ、より快適な環境のモンタ二エットに移ってきて、元あったノートルダム・デュ・ボン・ルメードの庵を中心に建てたそうです。回廊と小さなロマネスク様式の教会を目指し、巡礼者たちは大天使聖ミカエルと聖母マリアに祈りを捧げるためこのフリゴレの丘を登ってきたとか。
しかし、時の流れとともに所有母体が変わり、学校として使用された時期もあったり、フランス革命によって一時は無人状態になったりという紆余曲折を経て、1858年にプレモントレ派の修道士たちが住み着いたことで、再び修道院として復活しました。
その際、第二修道院教会として、既存のロマネスク様式の教会とは対照的な、ネオゴシック様式の3廊式バジリカ-当時としては最も豪華な装飾が施された教会の1つ-が建てられました。内部はカラフルなバロック様式の内装が施されています。
20世紀初頭にはフランス政府の反教権的政策の強化推進によって、修道士がベルギーに亡命していた時期もありましたが、現在は再びプレモントレ派の修道院として精力的に活動しているそうです。
基本的に修道院の敷地への立ち入りは自由にできるようで、特に見学料金等は必要ないですが、回廊のみは有料で、見学時間も限定されています。施設内には礼拝堂や教会のほか、巡礼者を迎えていた修道院の名残でしょうか、レストラン、宿泊施設、お土産物屋などもあります。
それでは入っていきましょう!
門を入り最初に現れる礼拝堂は、ロマネスクらしい簡素さで、いわゆる修道院らしさのような雰囲気をたたえています。
この先は修道院の中をまっすぐに進む並木道に沿って様々な建物が並んでいます。
そして左手にこの修道院の2つ目の教会が現れます。
19世紀に建てられたネオゴシック様式の第2修道院教会は、ロマネスク様式のノートルダム礼拝堂と一体化しており、内部は鮮やかなバロック様式の内装が施されました。
正面外観は、バラ窓があるものの、ロマネスクっぽいですが、後部に2つの尖塔があります(教会前の広場からは全く見えない)。
そして何より驚いたのが教会内の内装です。フランスではまず見かけた事の無い独特の内装をご覧ください。
外観とこのカラフルな装飾のギャップにすっかり気持ちが昂り、すごいすごいと喜んでいました。しかし回廊部分の見学は日曜日の午後3時からの見学ツアーのみ(有料)ということで、今回は見ることができず、ちょっとガッカリでした。
気を取り直して先に進むと今度はお土産屋を発見⁈
ここには装飾品、フレグランス、はちみつ、ハーブリキュール、ワイン、ビールなどなど数えきれないほどの”made by 修道院”製品が売られていました。
ここでしか販売していないのかどうかはわかりませんが、それなりに良いお値段でした。まあ、希少性(?)とか古くから伝わる製法で、原料にもこだわって、祈りを込めて作った唯一無二の製品たちと思えば、妥当な値段なんでしょうかね。
商魂たくましいなんて、思っちゃいけないですよね。
再び中央の並木道を進むとやや眺めいい場所につきました。
ここから振り返ると先ほどは見えていなかった教会の2つの尖塔を眺めることができます。
再び、今歩いてきた並木道を戻るのですが、通りに並ぶ建物には修道士さんが住んでいると思われる建物、レストランや宿泊施設、事務所などがあり、しっかり現代的な所得も得ながら、修道院として活動をしている様子が伝わってくる場所でした。
巡礼をする人達がその道中に立ち寄り、休憩や宿泊などをしていく修道院。そこでは昔から修道士自ら蜂蜜やハーブリキュールなどを作り、その生活を守ってきた。広い意味での自給自足生活を今も実践してるということでしょう。
観光という意味で、世界的にはそれほど有名ではない修道院だと思いますが(英語情報などもない)、あれだけの駐車場を持っていることからフランスではよく知られた修道院なのかもしれません。回廊の見学ができなかったのは残念ですが、敷地内や教会内を自由に見学できたり、お土産屋を見たりと、遺跡としての修道院ではなく、生きた修道院の見学は思いのほか楽しめました(無料だし)。
プロヴァンスを代表する修道院
プロヴァンスには『プロヴァンスの三姉妹』と呼ばれるマザン修道院(Abbaye de Mazan)を起源とするセナンク修道院(Abbaye Notre-Dame de Sénanque)、ル・トロネ修道院(Abbaye du Thoronet)、モリモン修道院(Abbaye de Morimond)を起源とするシルヴァカンヌ修道院(Abbaye de Silvacane)などがあります。
このうち私たちが訪問したことがあるのは、下記の2つの修道院です。
セナンク修道院はリュベロン地方の村々でも紹介したゴルド村の北の谷にあるラヴェンダーで有名な修道院です。頻繁にプロヴァンスのイメージ写真などでも利用される特級クラスの観光名所です。
シルヴァカンヌ修道院はデュランス川沿いにあるシトー派を代表する修道院です。一切の装飾を排除したその徹底ぶりにより本当の静けさを感じさせるとても素晴らしい修道院です(観光客も少な目)。
最後に
プロヴァンスは修道院や修道院跡がとても多い地方です。今回取り上げている修道院の中ではラベンダーで有名なセナンク修道院を除けば夏の観光シーズンでもそれほど大混雑するところではありません。
修道院というだけあり、所在地はどこもとてもアクセスの悪いところにあります。その中でも最初に取り上げたモンマジュール修道院は目の前にバス停もあり、車以外でのアクセスも可能と思われます(公式ホームページには車での案内のみあり)。
車を利用できる場合、または時間に余裕があれば、是非、修道院めぐりにも挑戦してみてください!
2020年夏のプロヴァンス旅行をまとめた『2020年、真夏のプロヴァンス』シリーズ